100年企業スタートアップ「世界一企業寿命が長い日本とシリコンバレーの創造性・スピードを組み合わせた新しい企業形態」

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「今までの僕の人生の中で、おそらく今日が一番大切なスピーチとなると思います。」

2010年6月25日、ソフトバンクの孫正義社長は定例株主総会後に設けられた「ソフトバンク 新30年ビジョン発表会」の冒頭でこのように述べ、同社の中長期的なビジョンを2時間にわたって熱く語りましたが、スピーチの最後にこれから本腰を入れて自らの後継者となる人材を発掘し、十数年をかけて同社の将来を託す後継者を育てることを宣言しました。

孫社長は19歳の時に掲げた「人生50ヶ年計画」で、60代で次世代に事業を継承するとすでに決め、52歳でいよいよ後継者育成を始めましたが、この計画を宣言した時から、後継者に事業をバトンタッチするという最後のステージが一番難しいと考えていたと語っています。

孫社長のみならず、多くの企業経営者(創業者)にとって、志を共有し、会社の舵取りを任せられる後継者となる人材を見つけ、育てることは、経営者人生の最後に待ち構える最も重要な仕事であると言えるのではないでしょうか。

iStock_7189948_LARGE経営者の最後の一番大切な仕事

2012年に帝国データバンクが発表した「企業平均年齢と長寿企業の実態調査」によると、業種や規模、地域によって差はあるものの、企業全体の平均年齢は35.6歳であり、孫社長が「新30年ビジョン発表会」のスピーチで、企業の創業から30年の存続率はわずか0.02%と述べているように、30年の年月が平均的な創業者の経営者寿命とすると、次世代への事業継承とその存続が如何に難しいことであるかを表すものです。

事実、1970年にフォーチューン500に取り上げられた企業のうち、およそ三分の一の企業は1983年の時点ですでに倒産、買収、合併、解体により存続しておらず、経済学者のレズリー・ハンナ氏は、20世紀においてその年の時価総額の上位100社が倒産や買収などで消滅し、存続する企業が半分に減少するまでの“半減期”は、75年であると指摘しています

これが小規模の企業であれば“半減期”は、10年に満たないと言われ、多くの企業は誕生から1、2年で姿を消しているというのも大げさな話ではありません。

iStock_16076514_LARGE優良企業も三社に一社は十数年で姿を消す

事業を一代、数十年と継続することさえ難しいと言われる中、創業者から2代目、3代目への事業継承がそれ以上に困難であろうことは、たとえそれが小規模のファミリー企業であれ、想像に難くありません。

弁護士として、長年ロックフェラー家をはじめとする数多くの同族企業の資産管理や子弟教育に携わっているジェームズ・ヒューズ氏は、サイコロを振り続けると出る目の平均値は3.5に限りなく近づいていくという確率論を引き合いに出し、企業が3代で終わるのは、自然の摂理にかなっていると言います。

iStock_19930635_LARGE確率論から考えても、企業が3代で潰れるのは理にかなっている

3代(100年)の間には、経営環境の大きな変化に加えて、ファミリーにも大きな変化があり、強い意志でビジネスに取り組むファミリーを育成し、代々その精神を伝える仕組みづくりが必要なのです。(3)

ファミリービジネス研究が進んでいる欧米では、経営者のニーズに合わせた大学のエグゼクティブ・プログラムが存在し、同族経営であるがゆえに発生する事業継承における障害や、コミュニケーションの課題に焦点を当てた実践的なプログラムを提供しています。

例えば、ハーバード・ビジネススクールは、2016年10月に中小企業の経営者を対象とするファミリービジネスプログラムを開講しますが、ここでは「家族経営システムの力学」「成長・維持・富の共有」「ガバナンス」「継承」の4つのエリアに焦点をあて、家族経営で起り得る場面を想定したロールプレイングやケーススタディーが組み込まれており、受講料は$42,000(4名まで)と高額であるにもかかわらず、過去の開講時には世界各地から製造業、金融、農業、小売業、不動産・建設業など様々な業種のオーナー経営者が親族とともに参加しています。

iStock_50799410_LARGEしっかりとバトンを引き継げる会社は、しっかりとしたプログラムを経て、バトンタッチをする

こういったプログラムを受講した経営者とその親族は、家族揃って学校に通うことで、ビジネス内での人間関係や家業への考え方を重視しながら、俯瞰的視点を持って、ファミリービジネスを体系的に学び、理解する機会を得られます。

このような学びを経て、経営者が長期的に社会の信頼と支持を得ながら企業を永続させるためのリーダーシップを発揮できるファミリー企業の地盤形成が期待できることから、こういったプログラムに何人もの幹部を送るファミリー企業も少なくないようです。(4)

iStock_73318781_LARGE身内だから会社を継がせるのではなく、教育された「適任者」が会社の未来を引き継ぐ
また、ファミリービジネスの経営と事業継承において、最も重要とされるのは、ビジネスとファミリーの境界線のマネージメントであると言われます。

安定した経営を成し遂げている企業経営者は、ファミリーとビジネスの境界線をうまい具合に保つことで、親子や兄弟の問題はファミリーの価値観で解決し、ビジネスの場には持ち込まず、逆にビジネスの問題はビジネスの価値観で解決してファミリーの場には持ち込みません。

これに関連して、ファミリービジネスコンサルタントが度々引き合いに出す、興味深いエピソードがあります。ユニークなスーパーマーケットとして知られる、ステュー・レオナルドという会社の話です。この会社には、社長の長男と次男が入社して真面目に働いており、三男も大学を卒業後に父の会社に入りましたが、遅刻や早退が続きました。これに業を煮やした父親は三男を自宅に呼び、「このままの勤務態度では雇い続けるわけにはいかない」と解雇を言い渡します。その後で父親は三男をジャグジーに誘い、「会社をクビになったそうだが、何かお前にしてやれることはないか?」と息子の将来を心配したと言います。

こういったことは頭では理解していても、実際の場面となるとそれに冷静に対処するのは難しいが故に、強い意志でビジネスに取り組むファミリーを育成し、代々その精神を伝える仕組みづくりが必要であると言えます。(5)

iStock_84627215_LARGE「家族は家族」、「会社は会社」、経営者としての甘えは一切許されない

諸外国と比較して、国としての歴史も長い日本は長寿企業の宝庫とされ、2008年に韓国銀行が発表した「日本企業の長寿要因および示唆点」によると、創業が200年以上の企業は全世界に5,586社あり、そのうちの実に半分以上の3,146社が日本企業で、2位以下はドイツ837社、オランダ222社、フランス196社と続きます。また、帝国データーバンクが2014年に行った「長寿企業の実態調査」によると、創業100年以上の企業は27,335社(全体の1.89%)に上り、例年1,000〜1,500社が創業100年を迎えていることを考慮すると、現時点では実におよそ30,000社が100年以上の歴史を持つことになります。

日本にこれだけ多くの長寿企業が存在する背景には、極東の島国という地理的な条件により、ヨーロッパや中東、中国などの大陸国家と比較して侵略されることや、戦乱が少なかったことが大きな要因と言われていますが、そればかりでなく、農耕民族を背景にした日本人が持つ和を重んじ、勤勉を尊ぶ価値観や性質、文化的背景が企業観に反映されている素地も長寿企業を生み出す大きな要因と考えられるでしょう。

iStock_74159427_LARGE日本企業の寿命の長さは世界でもダントツ

企業淘汰のスピードが特に早いとされるシリコンバレーにおいても、日本の伝統企業に習うべきところがあると関心を示す起業家もあり、ベンチャーキャピタリストで、エバーノートの共同創設者であるフィル・リービンもその中の一人です。2014年、リービンは「新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う」シリコンバレーのスタートアップ企業に、それとは対極にある日本の伝統企業の性質を取り入れ、単に100年の歴史ある企業を目指すのではなく、100年後もスタートアップの挑戦的なスピリットを持った伝統企業を実現させたいと“The 100 years Startup”の構想を語りました。

リービンは言います。「“プロダクト”は、今、この時、ここにある製品ですが、“カルチャー”は今後、百年後にまで続く(企業文化という)製品なのです。」

iStock_58962848_LARGE日本の長寿企業文化とスタートアップのスピードを取り入れたハイブリット経営

日産のカルロス・ゴーン社長など、経営状態悪化に陥った大企業が外部から迎え入れたCEOの采配により、右肩上がりに業績を回復したという英雄伝がしばしば語られますが、こういった外科手術的テコ入れの場合、英雄不在となれば、再び城の維持管理が行き届かなくなり、経営のほころびが表出してしまうことが少なからずあります。

また、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、マイケル・デル、ハワード・シュルツ、ユニクロの柳井正など、一度は経営を退いた経営者(創業者)が復帰する例も多数あり、このことは企業の有り様と理念を理解した後継者に最良のタイミングで、バトンを渡すことが如何に重要であり、また難しいことであるかを表しています。

iStock_20954620_LARGE歴史的な大成功を収めた企業でも、バトンタッチができるかできないかが、次の100年を大きく左右する

マネージメントの祖と呼ばれる経済学者、ピーター・ドラッカーは、「企業の精神は、どのような人たちを高い地位につけるかによって決まる」という言葉を残しています。

会社の将来を託す継承者には、その企業理念を理解し、それを正しい理解に基づき発信する能力が最低限求められることは言うまでもありませんが、付け焼き刃の理念理解であったり、そもそもバトンを渡す相手が十分な素質を備えていなければ、その先の第3、第4走者に繋ぐ前に残念ながら会社は息絶えてしまうでしょう。

iStock_58156826_LARGE経営は短距離走でも長距離走でもなく、リレーという全く別の競技

ドラッカーが言うように、経営者が思い描く企業の精神を幹部と共有し、企業全体に浸透させることで、安定した素地ができれば、経営者や幹部のみならず、組織に関わるすべての人々までもがリーダーとしての役割を意識し、共通の企業理念を後に続く後輩らに伝え、継承していく仕組みが形成されるのです。

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~人が生きる奇蹟の組織創造を目指して~ 株式会社ワールドユーアカデミー 

参考書籍)1.ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス 「ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則」(2014年、日経BP社)、山岡洋一訳 Kindle p.3972  2. ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス 「ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則」(2014年、日経BP社)、山岡洋一訳 Kindle p.3943 3.武井 一喜 「同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論」(2014年、株式会社クロスメディア・パブリッシング)p.3 4.武井 一喜 「同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論」(2014年、株式会社クロスメディア・パブリッシング)p.43 5.武井 一喜 「同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論」(2014年、株式会社クロスメディア・パブリッシング)p.107

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