スターバックスCEOが店を全部閉めて、全従業員の前で号泣「社員と家族の期待を裏切って申し訳ない。」

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全能のふりをするリーダーは多いものですが、残念ながら欠点の無い人など現実に存在するはずがありません。しかし、部下に対して弱みを見せてはいけないと思っているリーダーは多く、NEC、マッキンゼー、そしてアップルなどで人事総務本部長を務めて、独立した小杉俊哉さんは、著書『リーダーシップ3.0』の中で、すべてを完璧に演じるリーダーは、人間的な魅力を殺してしまっているのだとして、次のように述べています。(1)

「本来の自分に仮面をかぶり、強がってみせる上司は非常に多い。これでは、部下との信頼関係を築くことは出来ない。」

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人の上に立つ者、決して「弱み」を見せてはいけないと思っている人が圧倒的に多い

パーフェクトなチームを追究しているグーグルのプロジェクト「アリストテレス」は、長年の研究結果からよいチームに唯一共通している規範は、「チームメイト同士の接し方にある」という結論を導き出しました。

その内容は、家にいる時にも会社にいる時にも、同じ人格でいる事や、会社組織に脅威を感じないことを必要だとするものですが、実際、事業が常に新しくあるためには通常業務以外のことにまで踏み込む必要があり、そうしたイノベーションを創出する、ある種の「カオス」に対応できる手段はただ一つ、人間関係だけだとグーグルの元CEO、エリック・シュミット氏は述べています。(2)

例えばシュミット氏は、社員と仲良くなるために「三週間ルール」が有効だと考えており、新しい職務に就いたら最初の三週間は何もせず、ひたすら部下の話を聞き、彼らの抱える問題や優先事項を理解し、人となりを知ることに時間を費やすそうです。

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グーグル「最初の3週間は人間関係を築くために、仕事は何もしない」

スターバックスもグーグルと同じようにビジネスよりも、まずは人間関係を重視することを最優先に考えています。

スターバックスは2007年頃、顧客を省みることが許されず、株価が最優先であったウォール・ストリートの利益優先主義に飲み込まれそうになっていましたが、その時、当時スターバックスのCEOに復帰したハワード・シュルツ氏は、全米のスターバックスの店舗をすべて閉めて、全従業員をニューオリンズに呼び集め、「社員と家族の期待を裏切って申し訳ない」と涙を流したそうです。(3)

シュルツ氏は当時のことを振り返って次のように述べています。

「多くの人の前に立って、謝罪をした時、自然と涙が出てしまいました。特に男性のリーダーは強くあるべきだと思われがちですが、リーダーの本当の信頼はお金と同じようなもので、どれだけ透明性が高いかということなのではないかと思います。別に毎日弱さを多くの人に共有する必要はありません。しかし、ある瞬間に限っては自分の弱さをあえて多くの人に共有することが大切です。決してこれを恐れてはいけません。」

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思い切って感情を表に出すことは企業の透明性を表す

店舗を全て閉めたことで失った利益は8億円とも言われています。しかし、このカンファレンスでシュルツ氏は、自分の心をありのままにさらし、感情を共有することに成功し、その結果、スターバックスは全社を挙げて危機に立ち向かい、わずか3年後には過去最高の業績を達成するという脅威の力を発揮しました。

もともとシュルツ氏が会社を設立した際の起源には、ニューヨークの貧しい家庭で育ったという背景が大きく影響しており、おむつを運ぶ仕事をしていたシュルツ氏の父親は、ある日突然事故で足を滑らせ、腰と足首を骨折してしまいますが、その時、シュルツ氏の父親には健康保険も解雇手当もありませんでした。尊厳を踏みにじられ愕然とした父親の姿が今でもシュルツ氏の頭を離れず、生きがいを醸成しようという想いを持ってスタートしたスターバックスが、ウォールストリートの利益先行主義に飲み込まれてしまっているのを見たシュルツ氏は、自然と涙を流してしまったのでしょう。

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2000年にシュルツ氏がCEOを交代すると、スターバックスは利益先行主義にどんどん飲まれていった

スターバックス本来の姿を見失ってしまったことに気づいたシュルツ氏は、2008年にCEOに復帰する際に、台風で被害にあったニューオリンズに店長を集め、延べ54,000時間以上にわたるペンキ塗りや景観の修復等の社会貢献活動から仕事をスタートさせることで、本来のスターバックスの姿を取り戻していきました。

この54,000時間のボランティアを通じて、スターバックスの社員は再びつながりを取り戻し、ある社員は顧客の病気の子供に自分の臓器を提供するまでに人にシンパシーを感じるようになったと言いますが、全員がそこまでではないにしろ、トップが涙を流し、感情をあらわにしたことで、スターバックスの「まずは商売ではなく、顧客や従業員との人間関係」を重視するという概念が、再度従業員の心の中に刻みこまれました。

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行き先を見失ったスターバックスの従業員はまず社会貢献からスタートした

強みや長所を研究する「ポジティブ心理学」の第一人者、イローナ・ヴォニウェルは、ポジティビティー対ネガティビティーの割合を見たときに、ポジティビティーが3対1よりも低い割合の場合は、衰退の道をたどるという研究を紹介していますが、ポジティビティーの割合が多ければいいというものでもなく、ポジティビティーが8対1よりも多くなると逆に元気がなくなってしまうと言いますし、リーダーであっても、ある程度の弱さを見せることで人々をポジティブに向けさせることができるのではないでしょうか。

多くの人は仕事において「弱音をはかない」「つらいことから逃げない」ということを信じていますが、強さのみを追求することでは人間関係に本当の絆は育まれず、結果的に組織を弱体化させてしまうそうで、「会社人間」が増えることは、会社にも社員個人にもデスマーチとなってしまうということを、ピーター・ドラッカーは次のように指摘しています。

「えてして会社は、自らの経営幹部に対し、会社を生活の中心に据えることを期待する。しかし仕事オンリーの人たちは視野が狭くなる。会社だけが人生であるために会社にしがみつく。」(4)

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ポジティブとネガティブは3対1の割合で保たなければならない

フェイスブックでCOOを務めるシェリル・サンドバーグは、「すべての人は感情的な生き物で、職場でも感情を分かち合ってよいのだ」と主張しており、昨年の時点で200万部を超える売り上げを記録した著書「LEAN IN(リーン・イン)」の中で、自分は仕事中に泣くことがあるし、感情は切り離せないものだと認めるほうがメリットが大きいと考えており、次のように語っています。(5)

「ごく稀ではあるけれども、 困り果て途方に暮れたとき、あるいは裏切られたと感じたときには、 どうしても涙が湧き上がるのをこらえ切れない。あの頃より歳もとったし経験も積んだけれど、いまでもやはりそういうことはある。」

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「プロフェッショナル」であるという意味が昔と今では大きく変わった

『あるがままの自分を生きていく インディアンの教え』を記した松木正氏によると、インディアン達は祈る際に、「つらくてつらくて、しかたないのです」「どうしたらいいかわかりません、助けてください」と泣く人もおり、それすら言葉にできなくて声を震わせて叫ぶだけの人もいて、松木氏が一番衝撃を受けたのは、190センチで130キロはありそうな、インディアンの戦士のような2人がものすごい勢いで泣いていたことだったそうです。

「ウワーン、ウオーン、オウオウオウ」と、闇の中、慟哭する声に松木氏はあっけにとられますが、その声に応えるように聞こえてきた「ホー、ホー」という声は、まわりのインディアン達が「そうなんだね」「わかるよ」という共感を表している相槌で、インディアンたちはただ寄り添うように、自分も他人も「あるがまま」を受け入れていきます。驚きのあまり動けなくなっている松木氏に、インディアンの一人がこう言ったそうです。(6)

「この大地に生きるものにとって、一番大事なのは何かわかるか?信頼だよ。信頼のないところには、何も起こらない。信頼は何から始まるか分かるか?受け入れることだ。」

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見かけ強さと中身の感情のギャップが本当の信頼関係を作る

落語家の立川談志氏も「落語は人間の業の肯定だ」と言うように、落語は人間のダメな部分、どうしようもない部分を受け入れ、笑いに変えることで赦(ゆる)すからこそ、時代を超えて人々に愛されているのでしょう。

1970年代、まだ飛行機の運賃が高価だった時代に、「われわれは庶民のために戦う闘士である」と言って登場した格安航空の先駆けであるサウスウエストは、多くのアメリカ庶民から「自分の言いたいことを語ってくれる味方だ」として熱狂的に支持されていますが、このサウスウエストでは全ての従業員に対してありのままの自分でいることを求めるのだそうです。

サウスウエストでは、パイロットが機内放送で観光案内をしたり、誕生日の人がいれば乗務員全員でハッピーバースデーを歌うなどして、従業員と顧客が人として交流を楽しみ、たとえ顧客から「はしゃぎすぎだ」とクレームが届いたとしても、「次回は別の航空会社をご利用ください」と対応するそうで、サウスウエストが創業以来、40年以上に渡って黒字経営を維持しているのも、社員がより人間的であることを重視していることにあるのかもしれません。

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弱さを見せれば、同じような「弱さを見せてくれる人」が周りにも集まる

「堕落論」などを記した文豪、坂口安吾が、「人間は、ただ、人間をのみ恋す」と述べているように、感情を伴った「人間」だけが絆を作ることができるのであり、ロボットのように理知だけに重きを置いてしまえば、社員に愛されることはありませんし、どんなリーダーも弱さをさらけだして初めて、リーダーのために力を尽くしてもらうことを学ぶことができます。

あなたの感情が社員に受け入れられる時、あなたは本来の会社の力を見つけられるかもしれず、その時、部下たちも十二分に力を発揮することができ、組織の本当の姿があらわれるのかもしれません。

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~人が生きる奇蹟の組織創造を目指して~ 株式会社ワールドユーアカデミー 

京井良彦 「ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか」(2010年、あさ出版)
イローナ・ヴォニウェル「ポジティブ心理学が1冊でわかる本」(2015、図書刊行会

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