京セラ、稲盛和夫「もし私が自分の欲のために会社を経営することがあったら、殺してくれ。」
稲盛和夫さんが「心の経営」で、破綻したJALを再建させたことには、日本中が驚きました。米国シカゴ大学で脳科学の研究をしていた岩崎 一郎さんは稲盛さんの経営が理屈っぽく、単なる精神論のように聞こえて、どうしても信じることができなかったそうですが、稲盛さんの教えを受けている会社を実際に訪問してみて、やっとその意味が分かったと言います。
近年になってやっと欧米のビジネススクールでも、心や精神が経営にどのような影響を与えるかが研究され始めていますが、「常に明るく」、「ウソをつくな」、「とにかく感謝をしなさい」という稲盛さんの言葉は、目に見える数字や道具しか信じることができなくなってしまった私たち日本人にとって、とても懐かしいものに思えてくることでしょう。
やはり、私たち日本人には「目に見えないもの」を大事にする経営の方が合っている
JALの経営は「計画は一流、言い訳は超一流」と言われ、ピラミット型の官僚組織、いわゆる一握りのトップが会社全体を支配していました。会社が倒産したにもかかわらず、稲盛さんが主催する「盛和塾」の例会に参加してくるJAL幹部からは全く危機感が感じられず、ある時、他の「盛和塾」のメンバーの怒りが頂点に達し、参加者の一人が次のように述べたと言います。(1)
「会社が倒産したら、僕らだったら良くて一家離散、悪けりゃ一家心中 だよ。お前ら倒産したのに、何でそんなへらへらしていられるんだよ。」
稲盛さんが関わるまで、JALは大企業病の代表格だった
稲盛さんがJALの再建を引き受けた理由は、多くの人が「腐った企業」だと認識していたJALを立て直せば、他の苦境に立たされているすべての日本企業が「JALにできるのならば俺たちにもできるはず」と奮い立って、そこから日本を変えらえると思ったからだそうで、JALの再建は驚くようなスピードで行われましたが、稲盛さんが教えたのは、「ウソを言うな」、「人をだますな」といった、まるで小学校の道徳の授業で教わることばかりだったと言います。(2)
JALの幹部に説いたことは、小学校の道徳で教わるような単純なことだけだった
稲盛さんが京セラ創業時から説いている「人間として何が正しいか」という心を高める経営は、単なる精神論のように聞こえ、理屈っぽい経営者やコンサルタントには、いまいちピンときませんが、脳科学的にはチベット仏教の僧侶が世界平和や人の幸せを祈る時は、脳の活性が普通の人の数百倍になっており、集合知性(Collective Intelligence)についての研究でも、人々が心を一つにして同じ目的に向かっていく時、天才的な知性を持つ人よりもはるかに高いパフォーマンスを上げられることが分かっています。(3)
稲盛さんの精神論は脳科学的にも十分説明がつく
JALのフィロソフィ教育が始まった当初、「洗脳」という言葉が現場では飛び交い、社内からは「こんな教育をやるのに、社員の時間当たりのコストを考えるといくらになると思ってんだ!」というコスト面から批判もあったそうですが、稲盛さんは良心は努力しないと出てこないと指摘し、心を整理して、浄化し、良心を目覚めさせるために多くの時間を費やしていきました。
JALの経営破綻の根本的な原因は頭と体がバラバラなところにありました。しかし、稲盛さん自身は航空運送事業についての知識や経験は全くなかったため、「この手を打ちなさい。あの手を打ちなさい。」という指示をすることができず、唯一できたことは心や意識の大切さを社員全体に伝えることで、組織を活性化させていくことだけでした。(4)
航空業のことなど全く分からなかったため、稲盛さんがやったことは、人間としての正しさを教えただけ
そもそも稲盛さんは30歳前後で社長になった時から、心や意識、そして経営者で実業家としてではなく、人間としていかに正しいかをビジネスに対して追求してきました。
1961年、京セラを立ち上げて3年目に稲盛さんは11人の社員から定期昇給や将来の保障を求められ、「認められなければ会社を辞める」と詰め寄られましたが、まだまだ経営が不安定で、とても約束できないと判断した彼が取った行動はとにかく「ウソをつかないこと」でした。
「私を信じてくれ ないか。もし私がいい加減な経営をし、私利私欲のために働くようなことがあったら私を殺してもいい。」
どんな状況でも絶対にウソはつかない。もし、私がおかしなことをしたら殺してくれて構わない
JALの経営でも基本的な概念は全く変わらず、JALの経営幹部が軽い気持ちで予算を通そうとすれば、大激怒したと言います。
「お前、 誰のお金やと思うてんのや。会社の金やと思うから、こんなことに10億円も使わせてくださいと言ってるのやろ。社員が汗水流して稼いできた金、こんなもんに使えるか!」
このような形で、時には鬼軍曹のように厳しく、大声で怒鳴り、時には僧侶のように穏やかに諭して、「考え方」つまり、心を変えていくことで社員の細胞は見る見るうちに生き生きと変化していきました。一年間かけてJALの再生を取材した、原英次郎さんは「人はそう簡単には変われないが、必ず変わることができる。」と著書に記しています。(5)
人はそう簡単には変われないが、必ず変わることができる
18年連続で赤字であったハウステンボスをたった一年で黒字化させたH.I.Sの澤田秀雄さんも稲盛さんと同じように、「この手を打ちなさい。あの手を打ちなさい」と細かく指示をするのではなく、18年間一度も黒字を出したことがない従業員たちに、「ディズニーランドを超えよう!」と語り続けただけでした。(6)
澤田さんは「運が良いと呼ばれる人」は1.2倍の速さで仕事をし、2割増しの成果を出してくれるため、とにかく「運の良い人」、「良い気を出している人」を近くに置くことが大切だと述べていますが、稲盛さんも人が住まなくなって三ヶ月も経つと、その家はまるで玄関からお化けが出てきそうな感じがするとして、次のように述べています。(7)
「まったく人間の意識を感じないであろう家が、人が住んでさえいれば、生き生きしている。ところが、新築間もない家でも、人が三か月も住まなかったら、異様な感じがします。そのように、住んでいる人が醸し出す思いが、無生物である家にまで影響を及ぼすのですから、ましてや会社などというのは、毎日何十人、何百人が働いているわけです。
会社にはその人たちの思いが充満しているわけですから、その思いがすべてのものに影響を及ぼします。その思いがどのような方向を向いているかということで、会社は決まってくるわけです。」
目に見えないものが、すべてのことに影響を及ぼす
また、稲盛さんは、企業には目に見える部分と見えない部分があり、見える部分が資本金や技術開発力はある程度、数字で表せることに対して、見えない部分とは、トップが持っている信念や人生観、そして従業員が醸し出す意識や社風のことだと述べており、稲盛さんの経験からも経営に大きな影響を及ぼすのは後者の方であると言います。
もともと、稲盛さんは京セラの創業当時から、従業員との間にサラリーマンを超えた兄弟あるいは親子のような関係を築きたいと考えていましたが、京セラ元役員の岡川健一氏は、会社の水泳大会で稲盛氏と琵琶湖に行ったときのエピソードを、次のように語ります。(8)
「みんなはどんどん沖へ泳いで行くのに、私は泳げないので、岸でポツンとしていたんです。そこに稲盛さんがやってきて、何も言わずに私の手を引っ張って水の方へ行ったと思ったら、突然、私をおぶって泳ぎ始めたんです。もう感激して涙が出ました。」
目に見えない部分の方が圧倒的大きな影響を経営に与える
心、経営、そして人生などあらゆるものには法則があり、その法則をはっきりと掴み、その法則にのっとていけば、何事も上手く進んでいきますが、その法則に反すれば衰退する、世の中の原理はあまりにもシンプルです。
稲盛さんはKDDIを設立する前も、「自分の懐を潤すためではないか。目立ちたいというスタンドプレーではないか。」と自分の心の中に私心がないことを何度も何度も念入りに確かめたり、従業員にお弁当を買ってきてもらうと、いつも両手を合わせて「いつもありがとう」と述べたそうですが、その一つ一つが組織内に見えない何かを形成していくのでしょう。
おそらく、本当のリーダーとはそういう存在なのです。
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8. 岩崎 一郎「なぜ稲盛和夫の経営哲学は、人を動かすのか? ~脳科学でリーダーに必要な力を解き明かす」P50
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