青山学院となでしこジャパンのチーム作り「実力や戦略以外のところで、“何か”が足りないことをものすごく感じた。」

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青山学院が昨年の「わくわく大作戦」に引き続き、「ハッピー大作戦」という少し眉をひそめてしまうような作戦で、箱根駅伝2連覇を成し遂げましたが、2004年、原 晋監督が就任した頃の青学駅伝部は、茶髪にピアスは当たり前、ジャージの着こなしもダラッとしていて、まるで陸上選手らしくない集まりでした。

原監督がチームを率いて優勝するまでには、まさに11年という時間がかかりましたが、成功した理由はスポーツの指導力というより、作戦名の通り、気持ちやメンタル面の指導の成果の方が大きく、これは駅伝もビジネスも同じだとして、原監督は次のように述べています。

「私はもともと、陸上界の人間ではなかったんです。いまでこそ陸上界にいるけれど、原という人間の本質はサラリーマン、ビジネスマンなんです。中国電力という電力会社のいち営業マンとして10年間、地道に一所懸命に働いて培った経験、知恵とノウハウ、そして何と言っても覚悟があったからこそ、私は青学陸上部の学生たちを率いて、どうにかこうにか、こうして箱根駅伝で優勝することができたのですよ。」

iStock_000064944297_XXXLarge青学のチーム作りは、ビジネスの組織作りとなんら変わらない

ここ20年、日本企業は傾いた経営を何とか立て直そうと「効率化」、「スキルの標準化」、そして「パフォーマンスの最適化」など様々な手法を導入してきましたが、それらの手法はどんどん職場から人間味を奪い、逆にそれとは全く反対の手法で圧倒的な結果を出したのがスポーツの世界でした。

なでしこジャパンの澤 穂希選手は、ワールドカップの決勝前夜、ユニホームの色は当日になるまで分からないにも関わらず、青のシャツ、青のパンツ、そして青のソックスの姿で、自分が表彰台の真ん中に立ってトルフィーを掲げる姿がふっと頭の中に浮かんできたと述べていますし、原監督は、厳しいトレーニングをした上で、最終的に勝つか負けるかよりも、楽しむことが大事という「わくわく大作戦」、ゴールした時に、選手がハッピー、国民の多くの皆さんがハッピーになるという戦略で優勝しましたが、このような不思議な感覚はどこからやってくるのでしょうか。

iStock_000015620346_Large 厳しい試練を乗り越えたら、後は徹底的楽しむだけ。

「世界一のあきらめない心」の著者、江橋よしのりさんはサッカーが団体戦ではなく、個人戦であったら、澤選手はもっと早く世界一になったと述べていますが、サッカーや駅伝も組織という意味では、会社経営と何ひとつ変わりません。

コーチ(COACH)という言葉には、「馬車」という意味も含まれており、監督や経営者の役目は人を目的地まで送り届けることにありますが、なでしこジャパンの監督、佐々木 則夫さんは、自分が馬車なら、選手は何かという問いに次のように答えています。

「間違っても選手は馬ではない。監督の仕事とは、選手をムチで叩いて走らせることではなくて、選手が告げた行き先まで、選手を導くことなんです。」

iStock_000005819462_Large経営者は人を目的地まで送り届ける馬車

もちろん、勝負に勝つためには、実力があることが大前提になりますが、原 晋監督が本番前に「優勝する力があるとは思っていたが、現実として9割は難しいと予想していた」と述べていたり、佐々木監督も2008年の北京オリンピックでベスト4になった時、「サッカーの技術や戦略ではないところで、“何か”が足りないことをものすごく感じた」と振り返っているように、21世紀の新しい経営には、実力主義や業務の効率化を超えた“何か”が必要なのは間違いなさそうです。

iStock_000081364939_Large実力や戦略以外の何か

青学の「わくわく大作戦」が何かを知るためには、選手の走っている顔を見るのが一番ですが、原監督は陸上で成功することが、社会で出世することにもつながることを証明したいとして次のように述べています。

「もちろん、ハードな練習は不可欠だ。ニコニコ笑いながら練習しているだけでは強くなれないことなど百も承知している。そうではなくて、練習では修行僧のように自分に厳しく走るけれども、練習や試合が終わった暁には楽しくやったらいいではないかというのが私の考えだ。」

「ひとりで辛抱強く続けるが、暗くて横の動きが苦手というのが陸上選手の特性である。その欠点をどう克服して、人とつながる力をつけていくかというのを課題のひとつに据えて、私はいろいろな試みを仕掛けてきた。だから、青学の選手は表現力が豊かで、あるいは人の心がわかる人間に育っていると思う。こうした私の考え方が正しいことを立証するためにも、選手たちには常々“絶対、出世せえよ”と言い聞かせているところだ。」

iStock_000078263715_Large厳しさと楽しさ 最終的には表現力が高い人が社会で出世する

アメリカのバスケットボールの名門校UCLAのコーチとしてチームを率いたジョン・ウッデンは、毎年選手が入れ替わる中で、13年で10回の全米優勝、そして88連勝という前代未聞の記録を作りましたが、彼がこだわったのは「成果ではなくプロセスに集中すること」で、勝つという言葉は決して使わず、選手には常に次のように述べていました。

「なれる最高の自分になるために質の高い努力をしていたかどうか。それをしたなら、試合に負けても敗者ではない。それをしなかったら、試合に勝っても勝者ではない。」

iStock_000003113858_Mediumしっかりとしたプロセスを踏んだのであれば、例え結果がでなくても敗者ではない

スポーツには、スポーツの結果を出すプロセスがありますが、経営という観点から見た時、一発屋で終わらず、常に結果を出し続けるためのプロセスとはどんなものなのでしょうか。

もちろん、お金やストック・オプションで従業員のモチベーションを上げようとしても、上手くいかないことは様々なリサーチが証明していますし、近年急成長している企業を見てみると、経営理論と言うよりは、科学的にしっかりと証明された、スピリチュアルの要素を経営に取り入れるという傾向が強くなってきています。

iStock_000047225742_Largeスピリチュアル「長期的に成果を出す経営の確実なプロセス」

中でもグーグルやフェイスブックなど急速に成長する企業が、マインドフルネスの概念を経営に取り入れていることはよく知られている話ですが、研究によれば、マインドフルネスは脳神経の結びつきを再構成し、ジムでトレーニングをすれば筋肉がつくように、マインドフルネスを行えば心は強くなります。

マインドフルネスはサンスクリット語で「思い出すこと・心に刻むこと」という意味を持ち、鍛えることによって、常に「現在の瞬間」に戻る力がつき、さらには周りの人々と波長を合わせることも助け、周りの人々が自分と同じように不満や心配を抱えながら生きていることを理解することで、組織としての一体感が確立され、同じ方向に向かって進むことができるようになります。

iStock_000050265058_Largeマインドフルネス「周りとの波長を合わせ、同じ方向に向うのを促進する」

しかし、ハーバード大学のリサーチによれば、例えパフォーマンスが高い企業であっても、たった29%の従業員しか会社のビジョンを明確に答えることができないそうで、これが正しければ、約70%の従業員はこの会社がなぜ存在し、どこに向かっているのかさえ理解しないまま、仕事をしていることになります。

フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグは会社にスカウトしたい人材を見つけると、まず山歩きに誘い、頂上にたどり着いて、絶景が目に飛び込んでくるところで、自らのビジョンを語ります。

これは山歩きで気持ちをがらりと変えさせ、自らのビジョンを語るという立派な戦略であり、スティーブ・ジョブズやシリコンバレーの経営者がよく使う「Walk the Talk」という方法を応用したもので、シリコンバレーで活躍するニロファー・マーチャントは「Walk the Talk」について次のように述べています。

「一緒に歩けば、まさに一緒に問題や状況に直面できる。歩きながらのミーティングなら、メールやツイッターのチェックもできない。周囲で起きていることに気づき、五感が目覚め、オフィスでの会議では不可能に近いものが手に入る――喜びという感覚が。」

iStock_000071143375_Large山に登って思考を変えさせる

従業員のモチベーションを生み出し、それをどう持続させるかというのは、いつの時代も大きな課題です。

経済の中心がお金という資本から、知識という資本にシフトしていく中で、人間が本来持っている「自分のためだけに生きるのではなく、もっと大きなものの一部でありたい」と思う感情も、企業のビジョンと共に満たしてあげることが次の経営では大切であり、かのピーター・ドラッカーも次のように述べています。

「知識労働者とは新種の資本家である。なぜならば、知識こそが知識社会と知識経済における主たる生産手段、すなわち資本だからである。今日では、主たる生産手段の所有者は知識労働者である。」

「知識労働者にとっても、報酬は大事である。報酬の不満は意欲をそぐ。しかし意欲の源泉は、金以外のところにある。」

iStock_000056387986_Large21世紀のモチベーションは金以外のところにある

ビル・ゲイツの後を継いで、マイクロソフトのCEOになったスティーブ・バルマーは多くの観衆の前に立つと「ラー!!!」という雄叫びと共に拳を握り、ステージの端から端へと走りまわって絶叫し、汗をかいて観衆を熱狂させますが、そのエネルギーを彼が目の前からいなくなっても、マイクロソフト8万人の従業員は維持できるでしょうか。

バルマーと対照的に、ビル・ゲイツは内気でおどおどしていて、社交が苦手なタイプですが、彼が口を開くと、人々は一言一句聞き逃すまいと息を殺して耳をかたむけ、彼の言葉はその後、何ヶ月、何年間、そして何十年と、人々の心の中に残りインスパイアし続けます。

iStock_000020307383_Large一瞬で消えてしまうモチベーションと何十年間も心に残るモチベーション

もちろん、社内にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような、明確なビジョンを持った強力なリーダーがいれば、どんな時代や環境であれ、企業は正しい方向に軌道修正できますが、このような世界史に名を刻むようなリーダーは世界的に見てもほんの数パーセントしかおらず、すべての経営者がビル・ゲイツのようになろうとするのは、あまりにも非現実的です。

そういった意味でも、 目まぐるしい環境に合わせて常に脳や心をアップグレードをさせていかなければならない時代においては、科学的な面からしっかり分析されたプログラムを取り入れ、社内だけではなく、社外の従業員のライフスタイルも考慮した上で、現代の効率至上主義とはまったく違う、本当の意味での合理的な経営方法を取り入れていかなければなりません。

blog3-13効率至上主義を超えた本当の意味での合理主義

1983年、会社の平均寿命は30年ほどと言われていましたが、現在は7年、一つの商品が利益を生み出せる期間は1.5年ほどだと言われ、長期的に安定した利益を出すことがどんどん難しくなってきています。

戦後の焼け野原から立ち上がり、一貫して先進国のマネをすることで経済大国になった日本ですが、もうすでに戦後から70年を迎え、ただ忙しくがむしゃらに働くだけでは価値を生み出すことが難しくなってきていることに気づいている人も多いのではないでしょうか。

「忙しい」という字は、「心」が「亡ぶ」と書きますが、青山学院の原監督も、組織を運営していく上で、修行僧や軍隊のように人を育てるのは時代遅れだとして次のように述べています。

「かつて主流だった軍隊方式の指導は今の時代に合っていないし、選手の成長にもつながらない。その証拠に、青学の選手たちの表情を見てほしい。みんな、ほんとうにいい顔をしている。」

iStock_000017143011_Large長期的に成功している企業はみんないい顔をしている

もちろん、新しい経営の概念を取り入れて、長期的に企業が繁栄していくためにはただ瞑想をしたり、社員をあだ名で呼び合うなど、社員同士の関係をフランクにするだけでは、大した効果を望むことはできません。

最先端を行く企業が、“社員のいい顔”を作るために、経営学者ではなく、心理学者や脳科学者の力を借りているように、多くの欧米の経営者達も従業員がただタスクをこなし、利益を生むだけのロボットではなく、しっかりとした感情を持った人間であることに気づき始めています。

このような利益に直接つながるかどうか分からないことを投資と見るか、浪費と見るかは経営者次第ですが、結果を出している企業は投資と考え、時代の変化によって経営の仕方が徐々に変わってきていることを意識しなければなりません。

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~人が生きる奇蹟の組織創造を目指して~ 株式会社ワールドユーアカデミー 

【参考書籍】・ラズロ・ボック「ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える」(東洋経済新報社、2015年)  ・澤 穂希「夢をかなえる。 思いを実現させるための64のアプローチ」(徳間書店、2011年)  ・江橋 よしのり「世界一のあきらめない心: なでしこジャパン栄光への軌跡」(小学館、2011年)   ・佐々木 則夫、山本 昌邦「勝つ組織」(角川書店、2012年)   ・原晋「逆転のメソッド 箱根駅伝もビジネスも一緒です」(祥伝社、2015年)  ・ジョン・ウッデン「元祖プロコーチが教える育てる技術」(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014年)   ・ダニエル・ピンク「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」(講談社+α文庫、2015年)   ・ デイヴィッド・ゲレス「マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える」(NHK出版、2015年)  ・エカテリーナ・ウォルター「THINK LIKE ZUCK マーク・ザッカーバーグの思考法」(講談社、2014年)  ・ アリアナ・ハフィントン「サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功」(CCCメディアハウス、2014年)   ・P・F・ドラッカー「ネクスト・ソサエティ − 歴史が見たことのない未来がはじまる」(ダイヤモンド社、2002年)   ・サイモン・シネック「WHYから始めよ! − インスパイア型リーダーはここが違う」(日本経済新聞出版社、2012年)  ・姜尚中「心の力」(集英社新書、2014年)   ・原 晋「魔法をかける アオガク「箱根駅伝」制覇までの4000日」(講談社、2015年)

別の記事を読む → http://blog.world-u.com/

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