ビル・ゲイツ「21世紀のビジネスは人間の本性を主軸にした2種類の大きな力で決まる。」

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アメリカ・フロリダ州のスターバックスでの出来事ですが、ある男性が自分の注文以外に余分にコーヒー1杯分の代金を支払い、「次のお客さんの分は僕が払っとくから」とだけ言い残して去って行った後、店員が次の客に「前のお客さんがあなたの分を払ってくれましたよ」と伝えると、その人も「じゃあ、僕も次の人の分を払っておくよ」と続いたそうです。

そして、この見ず知らずの人にコーヒーをおごるという連鎖は閉店間近まで及び、結果的にコーヒーを次の人に与えた顧客数は378人に達しました。(1)

istock_89863137_medium「次のお客さんの分は僕が払っとくから」一人の優しさの恩恵を378人が受けた

このように「与えること」が容易につながっていくのは、「与えること」が人間に共通する喜びであることが要因だと考えられていて、ハーバード大学の研究でも、自分のために1万円の買い物をした時と、誰かのために1万円分のプレゼントを購入した時を比べると、プレゼントにお金を使った時の方が幸福度が高くなったというように、「与えること」が人間の本質的なところで喜びを生み出すものであることは、複数の研究によって明らかになっています。(2)

さらに、脳科学の研究でも、人に何かを与える行動をしている時には、前帯状皮質と呼ばれる情動などの本能をつかさどる部分が刺激されるため、人に何かを与えることで得られる幸福感は、食べ物やセックスで得られる幸福感と同じだということが分かっており 、実際に、発展途上国から先進国まで世界70カ国の人々を対象にした調査でも、ほとんどの人が権力、達成、自由、調和、そして安全といったものよりも、「与えること」を最も大切な価値観だと考えているそうです。

istock_81475593_medium本当の幸福度を主軸に置いた「Give」は、性欲や食欲を上回る

ウォールストリートジャーナルやフォーチュン誌など、さまざまなメディアで推薦された「GIVE&TAKE『与える人』こそ成功する時代」の著者であり、世界最古のビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートン校で学生から最も支持を集めている心理学者のアダム・グラント氏は、他者に与える人は、「バカなお人好し」なだけでなく「最高の勝利者」にもなれると説いていて、実際にどんな業界や役職でも、成功の階段の一番上にいる人は、損得勘定をする人ではなく、与える人であると言います。(3)

実際に、ある眼鏡店の販売員を対象に行われた実験によると、顧客のニーズを満たすために、商品説明や視力検査に数時間を費やしていたAのグループと、自分の業績を上げるために短時間でより多くの顧客に眼鏡を紹介していたBのグループとでは、Aのグループの売り上げの方が年間を通して約50%も高かったという結果 が出ていることから、与える人々は成功に最も近い存在だと言えるのではないでしょうか。

istock_52193440_medium長期的に見れば、「与える」を意識する人は圧倒的な勝利者

何十年も成果を残し続けている企業は、ひたすら社員に与え続ける企業だと言われていて 、たとえば、電気・ガス設備資材の製造販売を行っている未来工業は社員に対して、上場企業の中で最も多い年間140日の休日、勤務時間は7時間15分で残業無し、さらに業務改善案を出せばもれなく500円を支給し、それが良い案であれば3万円にアップするなど、社員に「与える」ルールを徹底しています。

その結果、業界シェアNo.1、創業以来赤字なし、そして上場企業の平均営業利益が約7%なのに対し、未来工業は設備資材メーカーでありながら営業利益は平均13.7%と、1965年の創業当時から現在まで功績を残し続けているのです。

多くの経営者は従業員をアメとムチで動かそうとしますが、未来工業の創始者、山田昭男社長は社員に与え続けることは事業を成功させるために最も大切なことだとして次のように語りました

「私は人材の『材』という字に『木へん』が入っているのが気にくわない。社員は材料ではなく宝だからです。それに、ムチが無くても社員は働いてくれるんですよ。それを知らないのは”無知”ですよ。」

istock_92861017_medium間接的にも直接的にも、従業員が喜ぶものを与えれば、おのずとそれは利益に繁栄される

このように、「見返りを求めず、他人に尽くす行為」は、自然界の動物の世界でも相手への思いやりを示す行為として常に行われており、例えば、オオガラスは動物の死骸を見つけると甲高い声で鳴いて仲間に知らせると言われています。(4)

その結果、最初に見つけたカラスの分け前は減ってしまいますが、自分の体より大きな動物の死骸を見つけたところで、自分ひとりでは食べきれないため、他のカラスに分け与えることで他の仲間が空腹を満たすことができ、また自分が空腹の時に他のカラスが自分に食料を分けてくれるかもしれないと本能的に理解しているため、利他的な行動を選ぶのかもしれません。

istock_83964637_medium厳しい世界の中で、「与えること」の意味を本能的に理解している動物たち

利他的なCEOはまだまだ多くなく、CEOが会社について話すときに21%の言葉に「私」が使われ、より私欲が強い人になると39%が「私」という第一人称になるそうですが、アップルでiPodやiPhoneをはじめとした革新的なデザインを開発したチームを率いるデザイナーのジョナサン・アイブ氏は、デザインにとって本当に大切なのは「心配りだ」と述べ、消費者が意識しなくても使い方が分かるデザインが最高だと考えており、「私」という第一人称を使って話さないことでも有名です。

アップルを12年以上追いかけているジャーナリストのリーアンダー・ケイニー氏は、著書「ジョナサン・アイブ」の中で、アイブ氏が「私(I:アイ)」と口にするのは「iPhone」か「iPad」について話すときだけだと述べていましたが、iPhoneやiPadなどに取扱説明書が付属していなくても、私たちが直感的にアップル製品を使いこなせるのは、ユーザーのために思考をこらしたデザインの賜物なのではないでしょうか。(5)

istock_2291837_medium とにかく多くのCEOは自分のことが大好き

実際どのくらいの人が仕事の中で「与える」ことを考えているかというと、イェール大学の心理学者であるマーガレット・クラーク氏が行った調査では、人は親しい関係にある家族や友人に対しては、損得勘定なしで相手の役に立とうとするにも関わらず、仕事上の人間関係においては多くの人が自分本位になると言い、あるアンケートでは92%の回答者が「仕事では受け取る以上に与える気にはならない」と答えました。(6)

ビジネスになった途端、多くの人が「損得」のラインを明確にし始めますが、アメリカのビジネスジャーナリストであるダニエル・ピンク氏は他者に思いやりを持つコツとして、すべての出会いにおいて、相手を自分のおばあさんだと思ってみることを勧めており、その人が両親のどちらかを産んだ女性だと思えば、損得勘定なしで思いやりを持って接することができるのではないかと語りました。(7)

istock_96854477_mediumもし、自分のお客さんや同僚がおばあちゃんだと思えたら、もっと仕事をするのが楽になるだろう

思いやりを持って他者に接していれば、誰かが気付いてくれるものでも、一昔前であれば与える人の優しさは埋もれてしまうことが多かったのかもしれませんが、ネット上で人と人とが密接に関わり合うようになった現代では、彼らの善意が容易に拡散されるようになったと言われています。

実際に、ある小さな薬局を営んでいるおばあさんが炎天下の中で連日話題となっているポケモンGOをプレイしている人々のために、「お水(無料)をどうぞ、熱中症に気をつけて!」というポスターを店前に張ったことがツイッター上で大きな話題となり 、また、この薬局以外にもこのような思いやりを見せた飲食店などでは売り上げが最大75%も増加するなど、インターネットによって「与えること」の波及効果 は、範囲も速度もますます大きくなっているようです。

istock_95657437_medium相手を気遣う、でも見返りを求めた時点でその気遣いは意味を失う

マイクロソフトの創始者であるビル・ゲイツも、これだけ通信手段が発達した現代では、フェイスブックのプロフィールを見れば、その人がどんな人かは一目瞭然であり、自分の事ばかり考えている人と仕事をしたいと思う人はいないため、未来を生き抜く唯一の方法は、他者に与え続けることだとして次のように述べました。(8)

「人間の本性には2種類の大きな力がある。一つは自分の利益であり、もう一つは他人に対する配慮である。資本主義の未来はこの二つを合わせたハイブリッドエンジンだ。」

istock_66346509_mediumビジネスの未来は自分と他人の境界線にある

ピクサーやグーグル、そしてマイクロソフトをはじめとする世界的企業で、「与える人」が昇進するようなシステムが確立され始めたことで、他者を蹴落として成功を掴むという既存の成功パターンが機能しなくなり、与える人こそ成功する時代に突入しましたが、そう考える人が一人でもいれば「与えること」の連鎖が社会で拡大し、いずれビジネスなど何らかの形で自分に戻ってくるのです。

まずは収入と支出で埋め尽くされた頭の中の会計帳簿を無かったことにして、限られた時間の中で自分は他者に何ができるかを考えるところから始めれば、この世の中は最終的に帳尻が合うようになっていると気付くことでしょう。

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ビジョン経営を実現する 株式会社ワールドユーアカデミー
 

1. 久世浩司「リーダーのための「レジリエンス」入門」(PHP研究所、2014)
2. トム・ラス「幸福の習慣」(ディスカバー・テュエンティーワン、2011)p.76
3. アダム・グラント「GIVE & TAKE 『与える人』こそ成功する時代」(三笠書房、2014)Kindle1155
4. ステファン・アインホルン「『やさしさ』という技術」(飛鳥新社、2015)Kindle1204
5. リーアンダー・ケイニー「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」(日経BP社、2015)Kindle3008
6. アダム・グラント「GIVE & TAKE 『与える人』こそ成功する時代」(三笠書房、2014)Kindle334
7. ダニエル・ピンク「人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する!」(講談社、2013)p.247
8. ジャレド・ダイアモンド、ダニエル・ピンク、アダム・グラント「変革の知」(角川書店、2015)p.28

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