どんなに忙しくて気候が過酷でも、自然に触れ続けるクリエイター達「次のグーグルは東京からではなく、フィンランドから生まれる。」

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都会に住みつくスズメ の寿命は、人工的な騒音などによるストレスが原因で、森の中で暮らすものよりも短いそうですが、都会に住む人間や動物が自然から離れてすごす時間が長くなることで、不健康になるだけではなく、能力が抑えられてしまうことがわかってきており、かつて稲盛財団より「京都賞」を送られたカナダの政治哲学者チャールズ・テイラー氏は次のように述べました。(1)

「自然が私たちを惹きつけるのは、それがある意味で感情と同調するからである。そのおかげで、すでに自覚している感情はさらに強まり、眠っていた感情は呼び起こされる。」

テイラー氏によると、自然は「大きなピアノ」のようなものなのだそうで、自然というピアノに向かうことで、人は自分の心の中にある最も素晴らしいものを表に現わすことができ、その素晴らしさはそのピアノに向かうほどに増していくものなのだそうです。

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都会に住むスズメは明らかに寿命が短い

小鳥のさえずりや吹いたり止んだりするそよ風、等間隔のように見えて実は微妙なズレができる木目、そしてたき火の炎などの自然の動きは、寄せては返す波が強くなったり、弱くなったりするような不規則さと規則正しさがうまく調和した「1/fゆらぎ」と呼ばれる揺らめきを持っており、人間の脈拍や目玉の動き、そして体温の変化や脳波などの生体リズムもまた、1/fゆらぎのリズムになっていると言います。

わたしたちが自然の中で感じる揺らめきが自分の生体リズムの揺らめきと共鳴すると、呼吸や内臓の動きなどが整えられて心地よさを感じ、ストレスが取り除かれて自然治癒力が高まるなどの効果があるのだそうで、人は誰もが1/fゆらぎに惹かれ、それによって気づかぬうちに健康や能力を養うことが可能になっているのです。(2)

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人工的に作られた何かではなく、自然から作られたものからしか、感じ取れない感覚がある (リンク)

ノルウェーで、薪をテーマにしたテレビ番組の中でたき火がただ燃えているだけの映像を8時間放映し続けたところ、視聴率が20%を超えたというほどに、人は自然の揺らめきから目を離せなくなることは確かで、また、面識のない2人組に、暖炉のある部屋とない部屋で過ごしてもらうという実験においても、暖炉のある部屋で過ごした方が2人の間に会話が途切れる時間が減り、より親しくなりやすかったという結果になりました。

1/fゆらぎに関する研究の草分け的な存在である、東京工業大学名誉教授の武者利光氏によると、人が深く感動する音楽をとってみても、1/fゆらぎが多く存在していると言い、「現代に生きる私達が、時代も環境も人種も宗教も文化的背景も違うモーツァルトの曲を聴いて感動するのはどうしてなのか?」という謎も、私たちが心地よさを感じる普遍的な基準が、その揺らめきにあるということで解決できると述べています

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そこに共鳴する揺らめきがあるから、時代も、環境も、人種も、そして文化も違う音楽を聴いて感動する

ナショナル・ジオグラフィック誌(2016年5月号)で、自然は最大で人間の脳の働きを5割も高める「脳の良薬」だと紹介されていますが、鳥の鳴き声や葉擦れの音、そして星のまたたき、木の漏れ日のきらめきなどの情報が視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感から入ってくると、脳の前方部分にある前頭葉の活動が活発になります。(3)

この前頭葉は創造性をつかさどる部分になっていて、新しいアイデアを思いつくなど創造力のある人ほど前頭葉が発達しており、「死とはモーツァルトが聴けなくなることだ」と言っていたアルベルト・アインシュタインの前頭葉は並はずれて発達していたことが研究で明らかにされています。

一方で現代の都会に生きる若者の脳は、前頭葉が発達段階のうちにネット漬けになってしまうことで成長が止まってしまい、脳科学者たちは「10代のまま脳がフリーズしてしまう」若者が増えることを危惧しています

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自然の中に行けば、創造性が上がるという単純なメカニズム

国連が毎年発表している「世界幸福度報告書」で幸せな国ランキングの上位にランクインしているスウェーデンは、各国のクリエイティブな競争力を測定する「グローバル・クリエイティビティ・ インデックス」でも1位に選ばれ、「自分のやりたいことを自分で決断し実行していく」というアイデアを行動に移す国民性が根付いています。

国土の6割が森林で、9万5千以上の湖がある自然豊かなこの国では、冬になれば氷点下の日が続くのにもかかわらず、冬の間に氷が張った湖に入ってストレスを発散する人たちもいて、「厳しい冬でも、こうやって大自然に浸るんです」と話すほどに自然を好み、スウェーデン人の80%が5キロ圏内に自然の保護された国立公園があるところに住んでいるそうです。(4)

そんなスウェーデンは音楽輸出において世界3位の作曲大国で、シングルチャートで世界1位を記録した曲数でもビートルズに続いてスウェーデン人のマックス・マーティンが第3位を誇り、さらに、家具のIKEAやファッションのH&Mなど、世界に幅広く愛されるブランドを生み出した企業が多くあるように、森の中で自然と触れ合いながらリフレッシュし創造力を高めているからこそ、創造大国であり続けているのかもしれません。(5)

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どんなに仕事が忙しくても、自然との接点は切り離さない

また、「グローバル・クリエイティビティ・ インデックス」で3位にランクインするフィンランドの人々も、人間社会と自然を行き来して過ごす習慣があり、社会学者のトゥーッカ・トイボネン氏と古市憲寿氏は、著書「国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由」の中で、ヘルシンキに長く住んでいるフランス人教師が、自然を称えることでフィンランド人との絆を深めている様子を次のように紹介しています。(6)

「サウナの後、岩場に集まりビールを飲む。沈黙の瞬間が訪れたら静かに湖や森のざわめき、ヨーロッパポプラの枝が奏でる風の音を聞く。そしてその瞬間行動するのだ、ゆっくりと何気なく、『自然は本当に美しいものだ』と言う。(中略)ざわめきが聞こえてくるだろう。『そうだな』『本当に』『ああ』と。」

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クリエイティビティとリラックスは本当に紙一重 

フィンランドでは、「自然享受権」と呼ばれる権利のもと、他人の森に入ってテントで寝たり、木の実やキノコなどを摘むこともでき、国歌でも「自然とともに繁栄する」ということが歌われるように、自然の素晴らしさを分かち合うフィンランド人は、多くの大都市社会に見られるように競争や評価に左右されないため、教師は生徒と同じ目線に立って交流し、ビジネスの成功者は挑戦者と同じ立場だという意識が強く、個々の生まれ持った能力が開花しやすい社会になっています。(7)

実際に、かつてフィンランドの経済を支え、携帯電話の分野で長く世界一のシェアを誇っていたノキアは、iPhoneの登場によって業績不振に陥ると、潔く携帯事業を売却して、元ノキア社員による起業を支える側に回り、その期待に応えるようにノキアからの資金提供を受けて生まれたスタートアップは1,000社にも及ぶそうです。(8)

そして、ノキアが傾いたことをきっかけにフィンランドでは次世代産業として数多くのゲーム会社が生まれ、現在240社あるという創業5年以内のゲーム会社は急速な成長を遂げており、そのうちの一社で「世界一成長が早いゲーム会社」とも言われたスーパーセル社の創業者イルッカ・パーナネン氏は、「フィンランドに次のグーグルが誕生する」と期待していると言うように、フィンランド人は次から次へとアイデアが沸いてくることを当然のように認めています。

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自然に触れている時間と創造性はほぼ比例する

大都市ニューヨーク・マンハッタンの中央に位置する「セントラル・パーク」は、1876年の完成以降ニューヨーカーや旅行者に人気となっていますが、セントラル・パークをデザインしたフレデリック・ロー・オルムステッド氏が、「すべての人々が美しい緑地を利用できるようにすべきだ」と主張していたように、現在、定期的に音楽や演劇、また貧困など社会問題に取り組むイベントが無料で開かれており、セントラル・パークはただ自然に触れ合うだけでなく、物事を世界に発信していく場所にもなっています。

自然が必要だと訴える市民に応えようと、誰もが簡単にアクセスできるよう設計されたからこそ、東京の皇居3つ分に匹敵するほどの広さを持つ自然あふれる巨大な公園となり、今日も多くの人で賑わっているのでしょう。

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大都市であっても、新しいことは自然の中から生まれる

オルムステッド氏がセントラル・パークをデザインした際、イギリスで初めて自治体が整備した、すべての人が無料で利用できる公園「バーケンヘッド・パーク」のデザインに影響されたと言われています。産業革命と急速な都市化が進んでいた19世紀のイギリスでは、狭い通りに建ち並ぶ家に住みながら、非衛生的な工場に通う労働者の健康状態は悪化していたため、新鮮な空気の中で運動ができて休息もとれる、植物をたくさん取り入れた公園の整備が進められていきました。

公園が整備されたことで人々の健康が改善されたことはもちろん、自然と触れ合う機会が多い人ほど道徳観や正義感が強いという研究結果もあるように、国民全体の道徳観が高まったほか、社会の秩序も保たれ、それはイギリスの公園を視察したオルムステッド氏が、「公園で楽しむ特権が全ての人々に平等に分け与えられている」と称賛したほどですから、自然を取り入れた公園が人々の健康だけでなく、社会全体の改善に大きく貢献することは間違いありません。

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ニューヨークが文化の中心、起源はこの街のど真ん中にある公園にある (リンク)

国土面積の約3分の2は森林である日本でも、明治時代に来日したアメリカ人が日光の中禅寺湖を訪れた際、トンボのあまりの多さに驚き、「こんなにトンボの多いところを見たことがない」という感想を残しており、俳句など四季折々の言葉を収録した歳時記には5,000以上の季語が使われていることからも、少し前までの日本人は移り変わる自然に喜びを感じて芸術や文化を発展させていました。(9)(10)

町のひとつの区画にたった10本の木が増えただけで、そこの住民が感じる健康度合いは1%アップするそうで、この研究を率いたシカゴ大学のマーク・バーマン教授によると、別の方法で同じ効果を得ようと思えば、近隣の家庭それぞれに1万ドル(約100万円)を配る、もしくは人々を7歳若返らせないといけないほどに大きな効果なのだそうですが、それほどに木々が人間に大きな影響をもたらすのは、鳥や虫の声、そして花の香りや風に舞う木の葉などによって人の感覚に揺らめきを与え、能力を最適化させてくれるからではないでしょうか。

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オフィスに小さい植物を置くだけでも、確実に健康度や幸福度はアップする

日本人は何百万年ものあいだ、屋外で森や林に囲まれながら生活してきて、住居を構え始めたのはほんの1万年ほど前であるため、まだ屋内での生活に人間の体は慣れているわけではなく、普段の何気ない生活がわたしたちの体には大きな負担となっていて、うつ病や原因不明の体調不良に多くの人が悩んでいるように、気付かぬうちに体や脳は悲鳴を上げています。

現代人が体調を戻そうと真っ先に向かうのは病院ですが、そんな時、本当に行くべき場所は自然の中であり、森の中を散策することで心身の健康を目指す「森林療法」が徐々に注目されてきているように、自然と触れ合うことこそが、研究に研究を重ね開発された薬よりも体調改善には効果的で、さらには、創造力も高めることができるのですから、自然がわたしたち人間に与えてくれるものは図り知れません。

わたしたちはもっと自然と触れ合うことの大切さを理解し、定期的に自然の中へ“帰る”機会を作るべきなのではないでしょうか。

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~人が生きる奇蹟の組織創造を目指して~ 
ビジョン経営を実現する 株式会社ワールドユーアカデミー
 

1. デイヴィッド・ブルックス 「あなたの人生の科学(下)結婚・仕事・旅立ち」(2015年、早川書房) p.316
2. 石田秀輝 「自然に学ぶ粋なテクノロジー なぜカタツムリの殻は汚れないのか」(2009年、化学同人) p.206
3. 「ナショナル ジオグラフィック日本版」(2016年5月号、日経ナショナルジオグラフィック社) p.34
4. Martin Prosperity Institute 「Creativity and Prosperity: The Global Creativity Index」(January 2011) p.iv
5. 「ナショナル ジオグラフィック日本版」(2016年5月号、日経ナショナルジオグラフィック社) p.32
6. 泉秀一、千本木啓文、小栗正嗣、原英次郎、森川潤 「北欧に学べ なぜ彼らは世界一が取れるのか」(2015年、ダイヤモンド社) Kindle 323
7. Martin Prosperity Institute 「Creativity and Prosperity: The Global Creativity Index」(January 2011) p.iv
8. 古市憲寿、トゥーッカ・トイボネン 「国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由」(2015年、マガジンハウス) Kindle 452
9. 古市憲寿、トゥーッカ・トイボネン「国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由」(2015年、マガジンハウス) Kindle 430
10. 泉秀一、小栗正嗣, 千本木啓文, 原英次郎, 森川潤 『北欧に学べ  なぜ彼らは世界一が取れるのか』 (2015年 ダイヤモンド社) Kindle
11. 芝奈穂 「ヴィクトリア朝期イギリスにおける自治体公園の誕生」 
    (2009年、日本ヴィクトリア朝文化研究学会) p.64
12. 養老孟司 「脳と自然と日本」 (2001年、白日社) p.10
13. 野本寛一 「神と自然の景観論」 (2006年、講談社) p.6

別の記事を読む → http://blog.world-u.com/

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