他人の恩に報いたい!それが人間を突き動かす原動力だった。
恩送りというゆかしさのある日本。

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 桜が満開に咲きほころぶのを見ると春がやってきたのを感じるとともに、さあ今年もまたがんばろうという気分が沸き上がってきます。

 コノハナサクヤビメが古事記に登場していますが、古来、桜というのは神聖なものでした。何といっても桜の木の化身でもあるコノハナサクヤビメは天照大神のひ孫であり天武天皇の曾祖母でもあります。いかに桜というものが日本人に大切にされてきたかが伺える逸話です。

Baby chicks at farm
↑恩に報いたい

日本人の心と言えば何を思い浮かべるでしょうか?
謙譲の精神やオリンピックで一躍有名になったおもてなしの心もそうかもしれませんが中でも恩を大事にしてきたようです。

 日本の昔話にも恩返しをモチーフにした物語は枚挙にいとまがありません。鶴の恩返し、浦島太郎、舌切り雀、ごんぎつね等々。忠臣蔵が民衆に支持されたのも、主君の恩に報いたからでしょう。

 反対に恩知らずという言葉には深い侮蔑の意味が込められています。「一宿一飯の恩」という言葉は僅かでも自分に恩を受ければ、それを忘れないで大事にしていくということですから、恩知らずというのは犬にも劣るとされてきました。

 しかしながら恩を大事にするのは日本人だけではありません。阪神淡路大震災のときやあの東日本大震災のときには世界各地から支援が届けられましたが、その人々が異口同音に日本に助けてもらったから恩返しがしたかったのだと口を揃えます。
 
Baby chicks at farm
↑子育てにもトリガーがある

 世界中の人々が恩というものを大事にしてきたとしたらそこには何か理由があるのではないかと考えるのが学者という人種のようで、幾人もの学者たちが人間の無意識の行動にはそれを引き起こすトリガー(引き金)があるのではないかと考えました。

例えば動物学では定型的動作パターンとして七面鳥がヒナに餌を与える行動がヒナの鳴き声をトリガーとしていることが証明されています。母親が子供を扶育していくという本能と思われていた行動すらも、ヒナの鳴き声というトリガーが入ってはじめて引き起こされる行動でした。

 実験によればおもちゃのヒナも鳴き声のテープを聞かせれば抱きかかえ、それどころか我が子であっても鳴き声がなければそのヒナを殺してしまうことさえあるというのです。

 この動物行動学をもとに人間の無意識の行動にもトリガーがあるのではないかと考えて研究してきたのがコーネル大学のデニス・リーガン教授です。デニス・リーガン教授によれば人間の無意識の行動を促すトリガーは恩義だというのです。

Baby chicks at farm 
↑恩を返すのは人類普遍の原則

デニス・リーガン教授の実験はとても簡単なものでした。集められた被験者に対してほんの少し親切な振る舞いをすること、この場合はコーラを奢ることでしたがその細やかな好意にたいして被験者は一様に恩義を感じそのあとのお願いを了承する確率が倍に跳ね上がったのです。

この実験で恩義というものを大事にするというのが、人間の心に刻み込まれているということが証明されました。私たちも自分に親切にしてくれた人間を邪険にすることには抵抗を感じたことがあるでしょう。

Baby chicks at farm
↑どんなに貧しくても恩を忘れない

フランスの人類学者であるマルセル・モースは、人類の文化には与えられればお返しをする義務が存在すると言っています。

恩義というのが国を越えて普遍的な原則であることがわかる例は枚挙にいとまがありません。例えば東日本大地震の際にはなんと91カ国地域が175億円もの金額を日本に寄付してくれましたし日本赤十字社には386億円の寄付が寄せられました。

 そこにはトンガやアフリカ諸国、小さな島国もありました。どちらかといえば貧しい国々がどうしても日本に恩義を返したいと行動してくれたのです。日本から学校建設などの支援を受けた子供たちが精一杯の支援をしてくれた例も沢山ありました。このように恩に報いるということが行動の基盤にあるというのはとても素晴らしいことです。

Baby chicks at farm
↑人は多くの人々に支えられて生きている

 一口に恩と言ってもそれこそ無数にあります。親・兄妹・学校・職場……。ありとあらゆる場所で人は様々な場所で支えられて生きています。一人前の社会人であってもそこまで成長するためには多くの先輩の支えがあったことでしょう。もっといえばその会社がなければ今の自分の居場所はない訳です。

 一人前の大人の顔をしても誰もが赤ん坊のころには親に育ててもらってきたのです。いいやうちの親は何もしてくれなかった!と言ったところで、赤子が生きて大人になれたというのは、少なくともそこで何等かの援助があった訳です。そうでなければ赤子は死んでしまいます。

 ですから昔の人は四恩といって国・父母・師友人・衆生の恩を大切にしようといったわけです。国を持たない人々の悲劇をみれば国があるというのはありがたいことです。父や母、先生や先輩、友人や顔も知らない多くの人々に支えられて生きているということを、桜の花を見ながら思い返すのもよいことかもしれません。

Baby chicks at farm
↑恩着せがましい人には注意が必要

ところが恩という言葉を聞くとどうもモヤモヤするという人がいます。恩着せがましいとか、恩に着せるというような言葉も存在していますし親切にされているのに嫌な気分になることもあります。これは一体どういうことでしょうか?

実はこの人は恩を受けるとそれを返さなければならないというルールは、恩を受けたことが負い目となって負担になる場合があるのです。ですから昔の人は「タダより高いものはない」といって安易に恩を受けることがないように戒めたわけです。

 先人の知恵は恩義のルールが悪意を持って行われることがあることを警告しています。このような恩義の押し付けはどのようにすれば見抜けるのでしょうか。それは実はとても簡単です。

Baby chicks at farm
↑無意識の警告に耳を傾けよう

人は恩を押し付けられたように感じると無意識になんだかいやぁな気分になるものなのです。そう、例えばなんだか消化不良のように胃がむかむかするような感覚です。そのような場合にはその相手とは距離を置きましょうという無意識からのメッセージを受け取っているわけです。

 あるいはもう少し簡単な見分け方もあります。それは恩を売ろうとする人はそれを強調する傾向があります。いずれ恩を返してもらうつもりなので「あなたの為を思って私はこんなに苦労した」というような話をします。

 もしもあなたが本当に親友を助けたくて援助するとしたらどうするかを考えれば、わかりやすいでしょう。親友の心に負担をかけないようにさりげなく援助して、この援助は自分がどうしてもしたいからするだけなのだと言う筈です。間違っても自分はこんなに大変な負担を背負っているかのような振る舞いはしないでしょう。

Baby chicks at farm
↑恩送りというゆかしさ

 日本には古来より「恩送り」というゆかしい言葉が存在しています。それは恩着せがましさとは全く真逆の在り方で、恩を受けて立派に成長した人がその恩返しとして自分もまた別の人を支援していくというあり方です。

 「情けは人のためならず」という言葉が現代では情けをかけるとその人の為にならないと誤用されてしまうこともあるといいますが、この言葉は本来このゆかしい恩送りを表す言葉なのです。

近年「ペイフォワード 可能の王国」という小説が評判を呼びペイ・イット・フォワード財団が設立され映画にもなっているのでご存知の方も多いかもしれませんが、恩を受けたら他人に恩返しをしていくというのが世界中の共感を呼んでいます。

日本古来の「恩送り」というのはこのペイフォワードのもう少しひっそりとしたゆかしい在り方と言えるかもしれません。近年活躍したオリンピック選手を無償の行為で支える人がいたことが話題になりましたが、これだって選手が活躍しなければ表立つことはなかったでしょう。

Magic light in cherry tree park
↑情けは人のためならず

このように日本には恩返しをしていくという人間の無意識の行動を無償の愛にまで高めてきたことがわかります。しかもそれをいかにも密やかに行ってきたのでした。

人が本来恩義を感じ恩義を返したいというのが行動の源泉になっているとしたら、「恩送り」の言葉のように無私の心で社会に恩返しをしていくという日本古来のゆかしい考え方こそが社会を豊かにしていくことでしょう。

出来ればこうして今生きていることに感謝して、恩送りというゆかしい言葉が忘れさられることが無いように後世に伝えてゆきたいものです。そうなれば情けは人のためならずという言葉が本来の意味を持つ世界になることでしょう。



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参照:影響力の正体 ロバート・B・チャルディニー
   ブレインルール ジョン・メディナ
   井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 井上ひさし
   ペイフォワード 可能の王国 キャサリン・ライアン・ハイド
   古事記


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