- 2017-10-9
- コラム
小さく、迅速に、シンプルに
—アップルは〈シンプル〉の熱狂的信者—
「シンプルであることは、複雑であることよりも難しい。物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。だが、それだけの価値はある。なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。」
スティーブ・ジョブズのこの言葉をご存知の方も多いだろう。
いまや世界一のテクノロジー企業となったアップル。そこには偉大なるビジョナリーがいたことは、もちろん誰もが知っているだろう。
それに加え、デザイン力に優れ、エンジニアリングも、製造も小売もマーケティングもコミュニケーションも、すべてが優れていたこの会社。
しかし、それらすべてを超越した何かが、真にアップルをアップルたらしめた。
それは、“アップルは〈シンプル〉の熱狂的信者”であるということだ。
スティーブ・ジョブズのもとでアップルの「Think Different」キャンペーンにたずさわり、i Macを命名したケン・シーガル。
彼の著書「Think Simple 」によると、アップル社の成功は、リーダーシップ、ビジョン、才能、想像力、そしてハードワークによるものが大きいという。
しかし、それらの要素を貫く一本の柱が〈シンプル〉なのだという。
大企業でありながら、〈シンプル〉に徹底的にこだわり、追求してきたアップル。だからこそ、イノベーションを起こせたのではないか。
なんだ、そんなことか、と思うかもしれない。しかし、頭で理解しているのと、実際に行うことは雲泥の差がある。日本に限らず、世界中の多くの企業が、「シンプルが良い」とわかっていても、「正しいのはわかっているけれど・・・」とか「会社のルールがあるから仕方がない」と妥協して遠回りを繰り返しているのではないだろうか。
もしくは、意識的ではないにしても、大企業では組織が細分化されすぎてしまっているが故、知らず知らずのうちに遠回りをしていた、ということもよくあるのではないか。こうして、かつて世界を圧巻した大企業でも崩落の危機に陥ることは、今やめずらしくない。
戦後の高度成長期以降、日本企業はより豊かになるために、より大きく成長するために会社を拡大させてきた。その経済成長の恩恵は、皮肉にも企業を〈シンプルさ〉から〈複雑さ〉へと シフトさせた。
大企業では何かを決定するために複雑なプロセスを要する
通常、大企業では何か重要なことを決定する場合、多くのプロセスを要する。素晴らしいアイディアがあがったとしても、それが決定権のある人のところまで辿り着くのに、時間と労力が掛かりすぎてしまう。
この〈複雑〉な組織構造こそが、大企業でのイノベーションを阻んでいるのかもしれない。
そういう私も以前は、この〈複雑さ〉の中で仕事をしていた。
私は大学卒業後、就職先として大企業であり、当時安定とされていた銀行へ就職した。配属されたのは、渉外(営業)であった。FPの資格を取り、ファイナンシャルプランナーとして、お客様の資産運用の相談役となった。
取得するべき資格はすべて取り、学ぶべきことはすべて学んだと豪語し、銀行を辞め、業界最大手の人材会社へと転職した。
大企業こそがキャリアアップの道と思い込んでいた
そこで配属されたのも、また営業であった。配属された部署は、住宅事業部であった。理由は、「銀行にいたから」。元銀行員ということで、住宅ローンにも長けていると思われたのだ。
そこで思い知らされたのは、「私は何も知らなかった」ということ。
銀行で5年以上も営業を経験し、トップの売り上げを上げていたにもかかわらず、住宅ローンなど、融資のことは何一つ知らなかったのだ。
私は「井の中の蛙」であった。
その時、大企業の〈複雑さ〉を思い知った。
一見すると、大企業で1つの職種を極めることは、〈シンプル〉であると思うかもしれない。
しかし、その答えはNOだと私は思っている。
〈シンプル〉とは点と点が線で繋がり、詳細も踏まえながら全体が把握できる状態であり、首尾一貫していることだと思うからだ。
視野が狭いと周りが見えなくなる
この“大企業病”に侵されない方法こそが、〈シンプル〉ではないかと思う。
今までのレッドオーシャンの時代には、〈シンプルさ〉など必要なかったのかもしれない。規模や金銭力、信用力が優っていたかもしれない。しかし、インターネットが普及し、情報が溢れ、なんでも簡単に手に入る今の世の中において、これまでの〈複雑な〉やり方が通用しなくなってきているのは紛れもない事実である。
人々が本物を意識し始めたからである。
本物は、〈シンプル〉である
〈シンプル〉といっても、ただ単に断捨離とかミニマリストになろうという話ではない。もちろん、〈シンプル〉の初めの一歩として、いらないものを捨てる、整理する、必要なものしか買わない、などを実践することは良いと思う。
ドミニク・ローホーの「シンプルに生きる」によると、物がなくなると、空間が生まれる。すると、心に余裕ができる。必要のないことに煩わされることがなくなるという。また、上質なものを揃えることで、心の満足を味わうことができるという。
整理整頓された空間で心に余裕を
〈シンプル〉の第一歩として、削ぎ落とす、無駄を省くのは悪いことではないと思う。しかし、本当の〈シンプル〉とは、その先にあるのではないか。
削ぎ落とすのではなく、統合していく。
無駄を省くから進化へ。
これこそが、真の〈シンプル〉を極めるということなのではないか。
それには、シンプルであると同時に、迅速さも求められる。迅速であるためには、大きすぎてはいけない。
小さく、迅速に、シンプルに
もちろん、大企業であってもアップルのように〈シンプル〉に徹底的にこだわり、追求することができれば、イノベーションを起こすことは可能であると思う。
だが、大企業では時間がかかり過ぎてしまう。
これを難なくこなせるのが、中小企業であると私は思う。
現在、日本では中小零細企業が99,7%を占めている。小さな会社が創意工夫すれば、大企業にも負けないエネルギーが生まれる。小さいからこそ、より迅速に、シンプルにできる。
大企業では難しいイノベーションを起こすチャンスが多いにある。
あらゆる経験を積み、可能性を見出せるのが中小企業であり、色んなことを学んで行く中で、本質に辿り着けると思うのである。
そうやって、イノベーションを起こしていくことによって、世界は変わっていくのではないか。
今や、少数精鋭でも、大きな仕事をすることができる。
ビジョンを掲げ、創意工夫し、パラダイムシフトすることで世界にイノベーションを起こしていけるのだ。
今こそ、仕事の本質を見つめ直そう。
世界にささやかに貢献している、誰かの役に立っている、重要なものの一部である、という〈シンプル〉な感覚を持って。
何かをするなら重要なことをしよう。そして人の役に立つことを考えよう。
可能性を無限に広げていこう。
いまこそ、〈シンプル〉という武器を手に、この〈複雑〉な世界において、クリエイティブな力を発揮する時ではないか。
World U Academy:Abu
~人が生きる奇蹟の組織創造を目指して~
ビジョン経営を実現する 株式会社ワールドユーアカデミー
参考文献
「Think Simple」ケン・シーガル
「シンプルに生きる」ドミニク・ローホー
別の記事を読む → http://blog.world-u.com/